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BIZREN☆通信 34号 「技術で勝って事業で負ける」って本当?

2024年からBIZRENに参加しております須田と申します。
私は現在、某公的研究機関とその関連会社において、シーズ・ニーズマッチングを生業とする傍ら、細々と診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。今回は、皆様もよくご存じのフレーズ「技術で勝って事業で負ける」に関して考えてみたいと思います。

  1. はじめに: 日本の技術力と「事業力」のギャップ「日本の技術はピカイチなのに、なぜビジネスで勝てないんだ?」。
    これは、技術者や経営者が日々頭を抱える問題です。私自身も、アカデミアでの研究開発に多くの時間を費やし、技術こそが成功の鍵だと信じていました。しかし、最近のシーズ・ニーズマッチングの仕事を通して、技術と事業成功の間には大きなギャップが存在することを痛感しています。技術力が高いほど、事業がうまくいかない―そんな逆説的な状況も現実にはあります。
  1. 技術が強すぎると事業で負ける?
    妹尾堅一郎著『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』では、技術の強みが必ずしも事業の成功を保証しないという皮肉が詳述されています。技術者が新しい技術を「見せびらかす」こと
    に喜びを感じる一方で、実際にその技術をどうやって市場に投入するかが二の次になることがよくあります。
    例えば、画期的な新素材を開発した企業が、「これは世界を変える!」と信じて市場に投入したのに、全く売れなかったという話を聞いたことはありませんか?技術に没頭しすぎて、「売ること」を忘れてしまうのです。技術は完璧なのに、市場とのギャップが原因で失敗する…これが「技術で勝って事業で負ける」の典型例です。
  1. 技術で勝っても事業で負ける例: 日本の事例
    日本には、技術が素晴らしいにも関わらず事業として失敗した事例が多くあります。たとえば、VHS対ベータマックス戦争はその一例でしょう。ベータマックスは技術的に優れていましたが、ビジネスとしてはVHSに敗れました。その理由は単純で、技術の優位性よりも、マーケティング戦略や消費者ニーズに合わせた柔軟性が鍵だったのです。このように、技術で勝っていても「売れる仕組み」がなければ、事業としては成功しないというのは、日本のビジネスにとっての教訓です。
  1. オープン&クローズ戦略: 技術をどう活かすか?
    小川紘一著『オープン&クローズ戦略』は、技術の活用におけるもう一つの鍵を教えてくれます。彼の主張は、技術をオープンに提供する部分と、クローズにする部分を巧みに使い分けることで、事業を成功に導くというものです。
    例えば、ある企業が自社の基幹技術をオープンにすることで、他社との連携を強化しつつ、最も重要な技術部分はクローズにして他社の追随を許さないという戦略です。これにより、技術そのものを売るだけでなく、その技術が使われるエコシステム全体を取り込むことで事業を拡大することが可能になります。
    技術が優れていても、それをどうやって市場に適応させ、収益化するかが勝敗を分けるのです。
  1. 技術より大事な「売れる仕組み」
    技術がどれほど素晴らしくても、それだけでは成功しません。シーズ・ニーズマッチングの仕事を通じて痛感しているのは、どれほど斬新な技術でも、顧客のニーズに合わなければ売れないという現実です。
    「技術者は技術に溺れやすい」。これは私自身、アカデミアでの経験からも感じていることですが、研究成果を創出し、技術を向上することにばかり力を注ぎ、市場の声を聞くことを忘れがちです。研究や技術が主役ではなく、それを活用してどのようにビジネスモデルを構築するかが、事業成功のカギなのです。
  1. まとめ: 技術で負けても、事業で勝つ方法はある
    技術がすべてだと考えると、事業での失敗が増えます。しかし、逆に技術で多少劣っていても、適切なビジネス戦略を持てば事業で成功することは十分に可能です。
    技術で勝っても事業で負ける、逆に技術で負けても事業で勝てる。この逆説的な状況こそが、現代ビジネスの面白さです。技術と事業戦略がうまく調和することで、本当の勝者になれるのです。
    そしてそのためには、シーズとニーズのマッチングをいかに戦略的に行うかが、これからの事業成功のカギとなるのでしょう。

参考図書
『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎著
『オープン&クローズ戦略』小川紘一著

執筆者プロフィール

須田洋幸(すだひろゆき): 2021年・中小企業診断士登録。
某公的研究機関に四半世紀以上勤務し、その間、独国在外研究や研究所の経営企画、研究ユニット管理などを経験。
現在は関連会社にて、研究シーズと企業ニーズをベースに研究連携を組成するコーディネート業務に従事。
趣味は、球技崩れの陸上競技部リーダーを発端に、ウォーキングやトレランなど体を動かすこと。その他、昔夢見たフォークシンガーにいつかは・・・。

BIZREN☆通信 33号 「環境社会配慮確認とインパクトファイナンス」

2024年5月からBIZRENに参加しております吉江と申します。私は現在、某政策金融機関(以下「当行」)において、出融資保証(以下「ファイナンス」)の供与先であるお客様の環境社会配慮の適切性を確認するという仕事をする傍ら、副業で診断士活動を行っています。どうぞよろしくお願いいたします。

今回は、この「環境社会配慮確認」と、関連して最近メディアでも取り上げられつつあるインパクトファイナンスをご紹介します。

◆ 環境社会配慮確認

当行は、ファイナンスを供与する前に、信用力審査や事業評価を行いますが、同時に、ファイナンス対象プロジェクト全てにおいて、環境社会配慮も確認します。具体的には、お客様からファイナンスの要請があると、まず、環境社会へのリスクの度合いをスクリーニングするための所定のアンケートにお答えいただき、カテゴリ分類(主にA、B及びC)を行います。AやBに分類されると、さらに「レビュー」が行われます。大気質、水質、生態系、といったプロジェクト周辺の「環境」や、地域住民・先住民・労働者の人権、文化財、景観といった「社会」に対して適切な配慮がなされているか確認します。不適切な場合は、適切になるよう働きかけ、それでも改善されない場合は、ファイナンスを実施しないこともあります。そして当行のファイナンスは期間が10~20年と長期にわたりますが、その間、環境社会配慮の状況をモニタリングします。

当行は「環境社会配慮確認」のための独自ガイドラインに基づき業務を実施しています。同ガイドラインは、各国の政策金融機関の環境社会配慮確認に関する取り決めである「OECD環境コモンアプローチ」(注1)や、世銀グループの国際金融公社(IFC)の環境社会配慮に関する「パフォーマンス・スタンダード」(注2)も踏まえた内容となっています。

(注1)https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2016)3/en/pdf

(注2)https://www.ifc.org/en/insights-reports/2012/ifc-performance-standards

◆ インパクトファイナンス

さて、「サステナビリティ経営」という視点で見ると、企業は外部環境にある財務資本、人的資本、社会関係資本、自然資本等を利用して事業活動を行い、その事業活動やアウトプットが外部環境に対する正負の影響をもたらします。正の影響を大きくし、負の影響を回避・緩和することが企業に求められますが、「環境社会配慮確認」は、この負の影響の回避・緩和に着目するものです。一方、昨今、正の影響の結果としての社会的な意義の達成や社会課題の解決、すなわちポジティブなインパクトに注目してファイナンスを行おうという動きがあります。それが「インパクトファイナンス(インパクト投資)」です。

The Global Impact Investing Network (GIIN)(注3)によれば、インパクト投資とは、「金銭的なリターンをもたらすとともに、社会的及び環境的なインパクトを生み出すもの」です。そして、インパクト投資には、投資を通じてインパクトを生み出すという投資家の意図が必要で、インパクトの達成や進捗を測定し報告するという「インパクト計測と管理(IMM)」が行われるのが特徴とされています。

1920年代からの欧米における「社会的責任投資」等の動き、2006年の国連「責任投資原則(PRI)」の発表を背景に、2007年に初めて「インパクト投資」という言葉を使ったロックフェラー財団が中心となり2009年にGIINを創設しました。日本を含む世界400以上のアセットマネージャー、アセットオーナー等がメンバーになっています。また、2013年に当時のG8議長のキャメロン英首相の提唱で創設された「G8インパクト投資タスクフォース」(2024年5月にGSG Impactに改称)(注4)は、日本を含む35か国の政府、その他国際機関等がパートナーとなり、調査研究や普及啓発を行っています。

日本でも2014年にGSG国内諮問委員会(注5)ができ、2021年に民間金融機関が「インパクト志向金融宣言」(注6)を発表。そして金融庁による2024年3月の「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」(注7)の公表と前後して、2023年11月に、投資家・金融機関、企業、自治体等の幅広い関係者が議論する場として、「インパクトコンソーシアム」(注8)が設立されています。

(注3)https://thegiin.org

(注4)https://www.gsgimpact.org/

(注5)https://impactinvestment.jp/index.html

(注6)https://www.impact-driven-finance-initiative.com/

(注7)https://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20240329.html

(注8)https://impact-consortium.fsa.go.jp/

社会的課題の解決と金銭的リターンを両立しようとするインパクトファイナンスは、日本でもスタートアップ含む中小企業の資金調達手段になりうるか、個人的に注目しているところです。

執筆者プロフィール

吉江 歩(よしえあゆむ)

2024年5月中小企業診断士登録。

某政策金融機関勤務。海外事業(天然ガス、再エネ、船舶・航空機等)向けファイナンスや業務企画、コンプライアンス、IT企画・統制、働き方改革企画等を経験。現在は、環境審査室に所属。

大学時代に母高女子バスケ部の監督をした経験からチームスポーツ全般を見ることと、カラオケ、シャーロック・ホームズが好きです。

BIZREN☆通信 32号 「デジタルカイゼン」とそのプロジェクトマネジメントについて

今回、BIZREN★通信を担当する吉田樹生(たつお)と申します。2021年5月に中小企業診断士登録し、昨年10月にBIZRENに入会しました。現在、外資系ITベンダーに勤務しつつ、副業で中小企業診断士としての活動を行っています。以後、どうぞよろしくお願いします。

昨年、縁あって「カイゼン(活動)」の普及に取り組まれている某公益財団法人のプロジェクトに参画し、アジア各国の中小企業(主に製造業)を対象としたIoT人材育成に係る教育教材の執筆を一部担当しました。今回は、その経験に基づき、中小企業の「カイゼン」にデジタル技術を取り入れることの有用性と、その場合に適したプロジェクトマネジメント手法として「スクラム」を紹介します。

「カイゼン」にデジタル技術を取り入れるメリット

「カイゼン」とは、日々の業務におけるムリ、ムダ、ムラを排除し、生産性を高めるための活動を指しますが、近年は、IoTセンサーや小型カメラなどのハードウェアの低価格化やクラウドサービスの充実などを背景に、中小企業においても、デジタル技術を活用した「カイゼン」に取り組みやすくなってきました。デジタル技術を取り入れた「カイゼン」を私は「デジタルカイゼン」と呼んでいますが、「デジタルカイゼン」には、以下のようなメリットがあります。

①分析の高度化:IoTセンサーや画像認識技術を活用することにより、精緻なデータを得ることができるため、これまでは把握することが難しかったような細かい単位のムリ、ムダ、ムラを発見することが可能となります。

②効率性の向上:リアルタイムデータの収集と分析により、生産プロセスのボトルネックを迅速に特定し、さらにAIによる自働化などにより、生産活動の効率性向上が可能となります。

③コスト削減:デジタルカイゼンによる分析の高度化や効率性の向上により、不良品の減少、手戻り工数の削減、人件費削減などを通じてコスト削減が可能となります。

「デジタルカイゼン」において有効なプロジェクトマネジメント手法とは

「デジタルカイゼン」を行う際には、アジャイル型のプロジェクトマネジメントが有効です。なぜならば、アジャイル型プロジェクトマネジメントは、「カイゼン」と親和性が高いためです。

「カイゼン」は、日常業務においてムリ、ムダ、ムラを発見して、これらを短いサイクルで、継続的に改善していくことにより生産性を高めていく活動ですが、アジャイル型プロジェクトマネジメントも、短い期間で要件定義、設計、構築、テスト、リリースを繰り返すことにより、プロジェクトを進めていく手法であり、「カイゼン」と共通した特徴があります。そして、そのアジャイル型プロジェクトマネジメント手法の中でも、最も広く利用されているのが「スクラム」です。

「スクラム」は、1990年代に米国人のJeff SutherlandとKen Schwaberがソフトウェア開発のフレームワークとして体系化したものですが、Jeff Sutherlandは「スクラム」のフレームワークを開発するにあたり、その基本概念の多くを大野耐一が確立した「トヨタ生産方式」を参考にした、と言っています。また、「スクラム」という名称も日本人に由来します。野中郁次郎と竹内弘高です。彼らは、1986年にハーバードビジネスレビューに発表した論文「The new new product development game」の中で、競争力の高い企業の新製品開発のプロセスを「ラグビーのようにチームが一丸となって進む」と表現し、この特徴を持つ手法を「スクラム」と名付けました。JeffとKenはこの論文とトヨタ生産方式を基にスクラムを開発したのです。

「スクラム」と「カイゼン」との親和性について

このような背景から、「スクラム」は、その根本的な思想に「カイゼン」と共通する特徴を持っています。

①小さな単位の機能開発と変化への適応:スクラムは、システム全体を小さな機能単位に分割し、1~4週間の短期間で機能ごとに積み上げていくプロセスを繰り返して開発します。これにより、開発要件の変更に柔軟に対応できます。この点は、漸進的な改善を目指す「カイゼン」と共通しています。

②チームの主体性を重視:スクラムは、チームメンバーの主体性を重視します。メンバー各自が自発的に活動し、作業方法を決定することで、生産性と適応力が向上します。カイゼンも同様に、現場の作業者が主体的に活動することを奨励しています。

③透明性とコラボレーションの促進:スクラムは透明性を重視し、プロジェクトの進捗状況や開発内容を関係者全員が確認できるようにします。カイゼンにおいても、透明性とメンバー間の情報共有が重視されています。どちらも、関係者間の活発なコミュニケーションが協力や工夫を促進するという信念に基づいているのです。

④定期的な振り返りによる継続的なカイゼンの促進:スクラムには、定期的な振り返りイベントがフレームワークに組み込まれており、経験から学び、カイゼン活動を進化させる仕組みが備わっています。

まとめ

今回は、従来のカイゼンをデジタル技術により高度化する「デジタルカイゼン」の有用性と、そのプロジェクトマネジメント手法としてスクラムが有効であることをご紹介しました。紙面の都合上、スクラムの詳細には触れていませんが、興味を持たれた方は、「スクラムガイド(2020年11月版)」が公開されている他、関連する書籍も多く出版されていますので、ご覧いただければ幸いです。経済産業省が策定した「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」においても、「労働人口の減少や市場縮小等の課題に直面する全ての中堅・中小企業等にとって、DXの取組は必要不可欠」と謳われています。本稿が、皆様の中小企業支援活動の一助となれば幸いです。

執筆者プロフィール

吉田 樹生 (よしだ たつお): 2021年5月中小企業診断士登録

愛知県豊田市出身。東京都在住。神戸大学経営学部卒。

日系ITベンダーにて海外営業を担当した後,米IT調査会社を経て,現在は米ITベンダーの日本法人に勤務。インド駐在経験をもつ。2021年中小企業診断士登録。ITストラテジスト。

ITとファイナンスを武器に中小企業のグローバル戦略を支援することが目標。趣味は旅行、読書、カメラ、空手。

2024年度活動予定

原則毎月第2金曜(19:00~21:00)に開催し、2022年度入会者を中心に勤務先事例紹介などを発表。

オンライン開催、オンラインと会議室のハイブリット開催のどちらで実施するかは月によって調整。

148回 04月12日(金)
149回 05月10日(金)
150回 06月14日(金)
151回 07月12日(金)
8月休会
152回 09月13日(金)
153回 10月11日(金)
154回 11月8日(金)
12月13日(金) 忘年会
155回 01月10日(金)
156回 02月14日(金)
157回 03月14日(金)

2023年度実績

2023年04月14日(金) 総会、サステナブルブランディング
2023年05月12日(金) 電線とUL規格、電子線照射架橋技術に関して
2023年06月09日(金) 大学の課題を解決するビジネス
2023年07月14日(金) 銀行融資の検証ポイントを理解する
2023年09月08日(金) 収益認識会計基準
2023年10月13日(金) SalesForceでのシステム開発について
2023年11月10日(金) 日本のエネルギー事情とGXに向けた中小企業の打ち手
2024年1月12日(金) 東京都スタートアップ支援施策の全容
2024年2月9日(金) 中小企業診断士と生成AI活用について
2024年3月8日(金) 中小企業における脱炭素経営の必要性と第一歩の進め方

2022年度実績

2022年04月8日(金) 総会、歯科医院におけるものづくり補助金を活用したCT導入の検討
2022年05月13日(金) 会社を辞めずに診断士で稼ぐコツ、教えます
2022年06月10日(金) FATF対日審査と金融犯罪への取り組み
2022年07月8日(金) 住宅リフォーム業界について
2022年09月09日(金) 文書管理とDX、決算短信の読み方
2022年10月14日(金) 人材不足ICT業界救世主、オフショア開発の実態
2022年11月11日(金) 診断士なら知っておきたい著作権の基礎知識
2023年1月13日(金) タダでマスコミを活用!売上向上に向けたプロモーションとブランディング
2023年2月10日(金) 中小企業診断士だからこそしっておくべき本当の経済の話、ほめ達マル秘テクニック
2023年3月10日(金) 人材開発支援助成金と事業再構築補助金グリーン成長枠人材育成計画について

BIZREN☆通信 31号 「 2025年の崖を乗り越えるために 」

はじめに
BIZRENの皆様、こんにちは。今回担当させていただく後藤と申します。 2023年改めて今年もよろしくお願いいたします。せっかくの機会何を書こうかと考えましたが、本業であるDXについて、2025年の崖も近づいてきたこともあり、改めて振り返ったうえで、乗り越えるためにどうすればよいか考えてみたいと思います。


DXレポートと2025年の崖
DXレポートと2025年の崖と聞いて久しいですが、2018年に経済産業省からDXレポートが発表されました。要旨は、既存システムの問題を放置し、DXが実現できない場合に生じる2025年以降の経済損失は、最大12兆円/年(2018年の3倍)に上る可能性があり、いよいよ停滞する日本経済も崖っぷちの状況であるという比喩です。DX実現シナリオでは、複雑化した既存システムについて、廃棄・塩漬け・刷新等を仕分けしながらDXを実現するシナリオとなっており、実質GDP130兆円の押上が期待できるとされます。
既存システムの問題とは何でしょうか。複雑な要因が絡み合って形成されていますが、DXレポートによるとシステム自体の過剰なカスタマイズ、複雑化・ブラックボックス化によるものとされています。
その結果と、事業部門ごとに構築されたシステムは全社横断的なデータ活用につなげられず、経営者がDXを望んだとしても現場の抱える課題を乗り越えることができない現実に直面します。
DXレポートではさらに技術的負債についても言及、解決する手段としてシステムのモダナイゼーション、マイクロサービスへの移行が言及されています。


技術的負債と2025年の崖を乗り越えるためには
DXレポートと2025年の崖はご存じの方も多いかと思いますが、技術的負債については馴染のない方もいらっしゃるのではないでしょうか。結論的には、技術的負債は、ビジネスとIT、事業部門とIT部門の構造的な問題そのものであり、その課題解決こそ崖を乗り越えるために必要であるという示唆を与えてくれます。銀の弾丸はなく、人の問題であるということです。
技術的負債とは、老朽化したシステム、レガシーシステムであることだとよく言われますが、この考え方は技術的負債の本質を突いておらず、システムのモダナイゼーションが特攻薬かのように誤解を生みます。技術的負債の本質は、徐々に複雑性が増していくことで機能追加が困難になるソフトウェアの特性、システム側の現象を負債というビジネス側の言葉を使って表現したことです。

ソフトウェア工学の有名な書籍「人月の神話」より、ソフトウェアには特性があるといい、中でも2025年の崖を乗り越えるヒントが複雑性、可変性、不可視性です。端的には、ソフトウェアは常に外部環境の変化に合わせて変わり続ける必要がありながら、規模に対して非線形に複雑さが増大する特性を持つため、変化が生じるほど、ソフトウェアの累積規模に対してコストが発生するような負債的な性質を持ち、また、そのソフトウェアの特性そのものが一部の方々には非常に理解しにくいというものです。


DXと求められる変化
改めてですが、DXとはDigital Transformationであり、デジタルを活用して提供価値起点でビジネスモデルを変革することです。2000年以前のITの役割は、バックオフィス業務のシステム化が中心でした。それは事業部門とIT部門の関係性そのものであり、IT部門のミッションは安定的なシステム運用でバックオフィスを支えることでした。当時のソフトウェアは一度構築すると変化は少なくそれこそ固定資産のように捉えても大きな問題は発生しません。
以降のインターネットやスマホ革命は、ITの役割を大きく変えました。ITそのものが顧客接点であり、ビジネス価値であり、コアケイパビリティとなる現代社会を生み出しています。そこでは、市場動向踏まえたアジャイル的な変化が、スピード感をもって必要であり、ITに求められることが大きく変わっているといえます。先の技術的負債で述べたソフトウェアの特性の通り、ソフトウェアはビジネス側
から理解しずらい複雑性を持ち、そのことはスピード感をもって取り組みたい事業部門から見て、なぜこんなにできるのが遅いんだ、コストが発生するのだという印象を与え、システム部門からは、ビ
ジネスに貢献するために実施したい課題解決策がビジネス側からは理解されず、さらなる複雑化を進めます。これが組織的な軋轢とさらなるスピード感の低下、DX実現に向けた障壁となります。


さいごに
ソフトウェアそのものがビジネスの価値を生むことは、これからも続いていくと考えられます。私の専門とするマイクロサービス、DevOpsはシステムだけの考え方ではありません。本質は組織論
やいかにビジネス価値を生むために変化に追従するかという考え方のスタックになります。ソフトウェアを正しく理解し、ビジネスとシステム、事業会社とベンダー、経営層と現場、垣根なくお互いが
歩み寄り理解し合うことがDX実現に向けて不可欠と考えられます。

執筆者プロフィール

後藤 光生(Teruki Goto)/2019年9月診断士登録
SI企業に勤務、PjM・アプリケーションアーキテクトに従事。
専門はマイクロサービス/API、クラウド、DevOps。
趣味はBBQ。最近はまっているものはブルーチーズ。
好きな言葉は、「三方よし」。

BIZREN☆通信 30号 SalesForceでのシステム開発について

ているSalesForceでのシステム開発について記載しようと思います。

Sales Forceとは

 まず「Sales Force」という言葉の意味について、インターネットで調べてみると「アメリカのセールスフォース・ドットコム社が提供する営業支援クラウドパッケージソフト」とまるで一企業の商品名を指しているようかのような記載が多いですが、本来その言葉は「SFA(Sales Force Automation):営業力の自動化」という考え方から端を発している言葉です。

 商品の供給が需要を上回り、企業間の競争が激化した昨今の成熟市場におけるマーケティングでは、顧客志向や既存優良顧客の囲い込みが重要となっています。

「クレーム返品のあったお客様に同じ商品を勧めますか。それは怒られるでしょう。」

「野球のグローブを買ったお客様にテニスのラケットを勧めますか。それはバットでしょう。」

個々の営業担当者の知識・技量に依存するのでは無く、組織的な情報収集、戦略立案、支援活動で競争を勝ち抜いて行く、そういった販売活動の組織的な仕組みがSFAということが出来ます。個人技よりも組織力のほうが大切・・・、近代サッカーのようですね。

 SalesForceはそのSFAを実現するためにセールスフォース・ドットコム社が提供している営業支援クラウドパッケージソフトで、インターネットに繋がりさえすれば他に用意するものは無く、ユーザ数に応じた料金体系なので、中小企業でも導入しやすいと言えます。

Sales Forceの特徴

 私が感じているSales Forceの特徴は汎用性が良く練られているということです。SalesForce自体を動かしている開発プラットフォーム(Force.com)がサービス提供されており、例えばSalesForceはSFA機能は主に標準機能で構成されていますが、標準機能を全く使わずにカスタマイズ機能でSFAとは関係ない業務システムを構築することさえ出来てしまいます。

 クラウドサービスの分類である、SaaS、PaaS、IaaSに当てはめてみると、より理解し易いかと思います。SaaSとは「Software as a Service」の略語で簡単に言うとソフトウェアの提供サービスのことです。PaaSとは「Platform as a Service」の略語で簡単に言うとアプリケーション開発のプラットフォームの提供サービスのことです。IaaSとは「Infrastructure as a Service」の略語で簡単に言うとインフラの提供サービスのことです。

SalesForceにこれを当てはめてみると

SaaS:予め標準機能で用意されているSFAのアプリケーションサービス

PaaS:カスタマイズ機能でSFA以外でもアプリ構築できるサービス(Force.com)

IaaS:SalesForceのデータセンター、サーバー、ネットワークの利用

となります。

Sales Forceでシステム開発するメリット

 PaaSであるForce.comの機能は充実しており、特別なこだわりが無ければ大概の業務システムは構築できてしまいます。実際SFAとは全く関係ない業務システムをSalesForceで開発構築していることを目にするケースは多いです。この辺りはセールスフォース社の戦略を感じます。まず一番手広く導入し易いSFAでSalesForceを導入させて、導入後はSFA以外のシステムもSalesForceで構築させて、その会社のシステム全体をSalesForceに置き換えてしまう。ゼロから新たに作り上げるシステム開発(以降スクラッチ開発と呼びます)と比べてSalesForceはコスト面、開発面、拡張性において大きな優位性があり、SalesForceに置き換わる流れは止まらないと感じています。またしてもアメリカ企業に一本取られてしまったように感じます。

 提供されている個々の機能についても不特定多数のユーザの利用に常に晒されていることから、汎用性が高いです。この辺りは村社会的で汎用性・拡張性を軽視しがちなスクラッチ開発とは大きな違いです。

 技術者(システムエンジニア)側にとっても有利な面があります。スクラッチ開発では顧客の環境独自のものが多く、それに依存したスキルは他の顧客環境では転用出来ないことが多いです。それに対してSalesForceのスキルは、他の顧客でもSalesForceを導入しているのであれば転用できることが多いです。いわゆるポータブルスキルというものです。これは顧客側にとっても新しい技術者を入れる場合、教育コスト削減のメリットがあります。

Sales Forceでシステム開発するデメリット

 前述したように独自のこだわりが強いことや特殊なことはパッケージソフトである為、出来ない可能性があります。(大抵の場合は代替案で解決することが多く、そこはSEの腕次第ですが)

 マルチテナント(クラウド上で複数のユーザーがシステムを共有するモデル)である為、処理負荷に制限があり、開発する場合は常に意識しておかなければなりません。

  SalesForceの参考文献はネット上にも多いですが、分かり易いものが少なかったり、英語でしか無かったりします。Sales Forceの学習や理解をするのに時間を要することが多く、効率的では無いように感じます。

印象に残ったもの

 最後に私が印象に残ったものとして、SalesForceの理念の一つでもある「平等(Equality)」の一環ですが、web学習環境のトレイルヘッドや無料の開発環境提供など誰もが気軽にSalesForceが学べ、門戸が広いことがあります。SalesForce自体が業界で後発であった為、このような思想を取る必要があったともいえますが、開発環境・学習環境が有料や整備されていないなどで仕切りが高く、いまいち普及しないパッケージソフトウェアとは大きな差を感じます。

 このことは後発であることが必ずしも不利ではないということを物語っています。後発であるが故の「ゲームチェンジャー」。置かれた状況の不利を嘆くのでは無くチャンスを見出し、「チャンスは最大限に活かす」ということが大切なのだと思います。

執筆者プロフィール

尾崎 利光(おざき としみつ)/2020年11月診断士登録
システム開発会社に勤務。システムエンジニア(SE)で、最近は専らSalesForceでのシステム開発に従事しています。趣味は、子供とブロック遊び(リブロック)

BIZREN☆通信 28号 「 シアトル酋長が大統領に宛てた手紙 」

今回、『BIZREN★通信』を担当させていただく田中勇司と申します。2012年4月の診断士登録とともに、BIZRENに入会させていただきました。コロナ禍でなかなか直接皆様にお会いできる機会がありませんが、どうぞよろしくお願いします。

 以下の手紙は、1854年にアメリカのピアス大統領がネイティブ・アメリカンの土地を買収し、居留地を与えると申し出て、ネイティブ・アメリカンのシアトルの酋長が白人との戦いをやめるために大統領に宛てた手紙と言われています。

 ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、私は先日ご年配の診断士の方からご紹介いただき、初めてこの手紙の存在を知りました。現在の世界の状況と照らし合わせて色々と感じる点が多かったので、この場をお借りして共有させていただきます。

■シアトル酋長が大統領に宛てた手紙<一部抜粋>

はるかな空は 涙をぬぐい きょうは 美しく晴れた。

あしたは 雲が空をおおうだろう。

けれど わたしの言葉は 星のように変わらない。

ワシントンの大首長が 土地を買いたいといってきた。

どうしたら 空が買えるというのだろう?

そして 大地を。

わたしには わからない。

風の匂いや 水のきらめきを あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?

すべて この地上にあるものは わたしたちにとって 神聖なもの。

松の葉の いっぽん いっぽん 岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ

深い森を満たす霧や 草原になびく草の葉 葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで

すべては わたしたちの遠い記憶のなかで 神聖に輝くもの。

—————–<中略>—————————–

もし わたしたちが どうしても ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら

どうか 白い人よ

わたしたちが 大切にしたように この大地を 大切にしてほしい。

美しい大地の思い出を 受けとったときのままの姿で 心に 刻みつけておいてほしい。

そして あなたの子どもの そのまた 子どもたちのために

この大地を守りつづけ わたしたちが愛したように 愛してほしい。

いつまでも。

どうか いつまでも。

出典【『父は空 母は大地』(寮美千子・編訳 ロクリン社刊)】

※ぜひ全文をご覧ください。https://ryomichico.net/seattle.html

実は、上記の手紙は実在していません。

 この手紙のもととなった演説は、1854年(ペリーの黒船が浦賀にやってくる1年前)にあったとされます。そしてこの演説は、翌年、書簡の形でピアス大統領に送られたとされています。しかし、そのような書簡は存在していません。

 演説の「テキスト」が登場したのは、33年後の1887年です。1854年当時に、教育長や立法を担当していた スミス博士(Henry A.Smith)が「メモ」を頼りに、新聞向けに書き起こしたものです。

 その後、1971年にネイティブ・アメリカンを扱った『Home』という映画が制作されました。テキサスのペリー教授(Ted Perry)が「シアトル酋長のスピーチ」の台本を創作しました。映画制作者がこれをさらに改変し、「ピアス大統領への手紙」という形式にしました。

 1974年、ワシントン州スポーケンで開かれた万博で、この形式の短縮版が展示されています。

■手紙からの気付き

シアトル酋長は土地は私有財産ではなく、人類のものでもなく、地球のものだと言っています。そして、「大地への大罪は将来の子孫に禍根を残す」、とも言っています。もしこのネイティブ・アメリカンの世界観が普遍のものだと、もう少し早く人類が気付いていたら、我々が今日直面しているSDGsやロシアのウクライナ侵攻などの問題は、どのような形になっていたでしょうか。

 また、現在はITの進展により既存の情報を深掘りしていく『情報処理』が急速に進んでいるものの、自然に五感で触れ、そこで得た新たな知見を『情報化』する力が衰えているのではないでしょうか。自然と都市、感覚と理屈など両者のバランスが大事だと思いますが、前者がどんどん駆逐されて後者の割合が増えてきているような気がします。

 今回の手紙を通じて、長期的・多面的・本質的といった診断士として大事な物事の考え方について、改めて振り返るよい機会となりました。

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執筆者プロフィール:

田中 勇司(たなか ゆうじ):

2012年4月診断士登録

千葉県流山市在住。食品メーカーを経て、現在はビールメーカーに勤務。食品小売業向けのトレードマーケティング業務に従事。会社の副業解禁にともない、2021年11月に個人事業主の開業届を地元の税務署に提出しました。

趣味は、ヨガ・スポーツ観戦・お酒(!)

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